働き手の満足度UPにより、離職率が改善か?アイビューティーサロンへの復職のカギは?

 

【連載】ホットペッパービューティーアカデミー 研究員田中 公子氏が見る『アイビューティー業界』

働き手の満足度UPにより、離職率が改善か?
アイビューティーサロンへの復職のカギは?

ホットペッパービューティーアカデミー 研究員の田中公子です。ホットペッパービューティーアカデミーでは、美容サロンの各ジャンル調査を発表しています。今回は2023年4月に発表した「美容サロンの就業実態調査」をご紹介!サロンの数は増えていく一方で、人手不足は業界の大きな課題です。採用は「売り手市場」であり、サロンは求職者を「選ぶ時代」から、求職者に「選ばれる時代」に変わってきました。業界の就業実態を数字でみていきましょう。

 美容サロン就業実態調査とは?
ホットペッパービューティーアカデミーで、2017年より調査を開始。
ヘア(美容師)、エステ(エステティシャン)、リラク(リラクゼーションセラピスト)、ネイル(ネイリスト)、アイ(まつげエクステスタッフ)それぞれに対して、就業実態(働き方の実態や、仕事への価値意識など)を聴取しています。昨今の採用難や業界での求人課題を受け、2023年より調査を一般公開。業界の皆様方にもぜひご活用いただけますと幸いです。

 

文・作表:田中 公子(ホットペッパービューティーアカデミー研究員)

 

<目次>
1.  美容サロンの離職率は?
2.  2022年以降、離職率は改善傾向に
3.  仕事に対する満足度が上昇
4.  仕事で最も重視するもの、1位は「働いているスタッフの人柄」
5.  アイサロンへの復職意向は約6割
6.     復職のきっかけ、1位は?

 

 1. 美容サロンの離職率は?

 

美容業界は離職率の高い業界といわれていますが実際に数字で見てみましょう。
※今回ホットペッパービューティーアカデミーでは、「離職率」=各美容ジャンルで一度就職したが、離職した人の割合と定義して算出しています。
いちばん離職率が低いのは「ヘア」。美容師は国家資格の取得が必要なため、エステやネイルなどのジャンルに比べると、就職難易度が高いといえます。このため、他のジャンルに比べて離職する人も少ないのかもしれません。
一方、アイ(まつげエクステスタッフなど)も同じく美容師資格が必要ですが、離職率は71.4%と他の美容ジャンルと比べて高いスコアになっています。美容師から転職してまつげエクステスタッフになるケースもあるかと思いますが、美容師と比較すると離職率は大きく差があります。他のジャンル以上に、定着に対して課題感がありそうです。

 

 2. 2022年以降、離職率は改善傾向に

 

他のジャンルと比べて離職率は高めの水準にはありますが、時系列に見ると、2022年以降、アイビューティーサロンの離職率は減少傾向にあります。これは他のジャンルもほぼ同じ傾向で、2021年(コロナ禍)で離職率が悪化するも、以降は改善に向かっています。
背景には、ここ数年、美容業界で「ママ美容師が働きやすい環境づくり」、「スタッフの福利厚生改善」、「アシスタントの早期デビュー」など、働き方改革が進んでいます。離職率が低下している背景にはこういった取り組みの影響もありそうです。

 

 3. 仕事に対する満足度が上昇

 

データからも、仕事の満足度があがっていることが分かります。「職場の人間関係に満足」や「仕事そのものへの満足」をはじめ、全般的に、仕事に対する満足度が前年よりも上昇しています。
仕事満足度に関する項目が全般的に上昇していることは、サロンでの労働環境が変化していることとも関係があるかもしれません。例えば、コロナ禍で一気に浸透した「DX」(Digital Transformation)は美容業界にも波及しており、会計周り業務のDXにより、「レジ締め」の工数が大幅に減ったサロンもあります。「技術以外」の仕事が減ったことにより、余った時間を練習時間や別の業務の時間に充てられるようになって、仕事への満足度があがったとも考えられます。

 

 4. 仕事で最も重視するもの、1位は「働いているスタッフの人柄」

 

次に、アイビューティーサロンスタッフが仕事で最も重視しているものをみてみましょう。1位は「働いているスタッフの人柄」、2位に「給与」がランクインしました。
仕事を辞める理由にも、よく「人間関係」があがってきますが、お金以上に重視している人が多いことが分かります。求人票を見ただけでは、サロンで働く「人となり」はなかなか伝わりにくいものです。せっかく入社したスタッフが「こんなはずではなかった」ということにならないように、普段から等身大のサロンの様子をSNSやブログ、ホットペッパービューティー等を通じてアップしておくことも大切でしょう。これらは集客だけではなく採用にも力になってくるのです。
また2位の「給与」ですが、昨今は新卒でも給与にはシビアになってきています。給与が原因でサロンを離職するスタッフがいる一方で、給与改善に取り組むサロンには求職者があふれるなど、サロンは二極化してきています。

 

 5. アイサロンへの復職意向は約6割

 

離職率が7割以上のアイビューティー業界ですが、実は離職者の復職意向は6割にも!(「復職したい」、「条件によっては復職したい」の合計)これは、ヘア(35.2%)やエステ(48.3%)と比べても上回ります。
もともと美容師から「手荒れ」や「(美容室よりも)時間に融通がつきやすい」といった理由で転職する人も多いため、たとえ離職したとしても「やっぱりまた働きたい」というニーズがあるのでしょう。

 

 6. 復職のきっかけ、1位は?

 

最後にいちど離職したアイビューティーサロン従事者の「復職のきっかけ」を見てみましょう。1位は「資格を活かした仕事の方がよいと再認識したから」、2位は「その仕事が好きだから」です。
まつげエクステやまつげパーマによって、お客さまの目の印象は大きく変わります。ホットペッパービューティーの口コミにも、「長年の腫れぼったい目に対するコンプレックスが解消されて嬉しい」など心から感謝するお客さまの声を多くみかけます。
私は、アイビューティーサロンは、お客さま一人ひとりの見た目を美しくするだけではなく、お客さまのこれまでの悩みを解消し、前向きな気持ちになっていただくこともできる場所だと感じています。
アイビューティーの仕事はプロだからこそできる仕事です。そのプロとしての仕事を「好き」といえる方々が、長く働き続けられる業界になっていくことを心から願います。

 

データ出典:ホットペッパービューティーアカデミー

美容サロン就業実態調査」(2023年4月)
美容サロン従事者(ヘア:1,020人/ネイル:210人/エステティック:500人/リラクゼーション:779人/アイビューティー:151人)2,660人回収

 

<寄稿>
田中 公子(たなか きみこ)
ホットペッパービューティーアカデミー研究員
前職は経営コンサルティングファームでIT業界の業務改善に携わる。リクルート入社後、ホットペッパービューティーの事業企画を経て、2012年から現職。
調査研究員として、「美容センサス」をはじめとした美容サロン利用調査や、美容消費の兆しを発信。
セミナー講演、業界誌・一般誌・テレビなど取材多数。(共著『美容師が知っておきたい50の数字』『美容師が知っておきたい54の真実』(女性モード社)ほか)​